カウンセリングのスキルのメタモデルである、マイクロカウンセリング技法のうち、1)かかわり行動から、2)かかわり技法(基本的傾聴の連鎖)3)5段階の面接構造について説明する。
マイクロカウンセリング技法は、キャリアアップには欠かせないコミュニケーションスキル向上のための最重要な技法
マイクロカウンセリング技法とは
1990年代にアイビイ(Ivey, A. E)とその共同研究者によって開発されたカウンセリング手法で、カウンセラー訓練プログラムとして提唱されたもの。この技法は、面接、カウンセリング、心理療法などに適用可能で、カウンセリング・プロセスにおいて使用されるいくつかの手法を統合してカウンセリングの基本モデル「メタモデル」として定着した。
アイビイは、いろいろなカウンセリングに関わるうちに、多くのカウンセリングに一貫してみられる共通のパターンがあることに気づき、それを「技法」と命名し、「マイクロ技法の階層表」(日本マイクロカウンセリング学会HP参照)にまとめた。
http://www.microcounseling.com/microcounseling.html
「マイクロ」という言葉は、「微少」というだけでなく、一つ一つ小単位ごとに(一技法ごとに)着実に、綿密に、順次認識してステップ・バイ・ステップで学習していくという意味をこめて命名されています。
マイクロカウンセリング技法は、カウンセリングやコーチング、教育、リーダーシップなどのさまざまな分野で使用され、コミュニケーションスキルの向上や効果的な対人関係の構築に役立ちます。
技術的なスキルの訓練と実践の機会を提供し、コミュニケーションの質を高めるのに役立つ方法です。
キャリアアップには欠かせないコミュニケーションスキル向上のための一つの技法と言えます。
今回はマイクロカウンセリング技法の「マイクロ技法の階層表」うち、1)かかわり行動から、2)かかわり技法(基本的傾聴の連鎖)3)5段階の面接構造について以下概要を説明します。
1)かかわり行動
コンサルタントがクライアントに関わるときの土台となる行動で、クライアントの話を「聴く姿勢」
①視線:相手への視線に気をつける
②声の調子:語調、スピードなど、話しやすい雰囲気
③言語的追跡:話の腰を折らない、最後まで聞く、伝え返しで話したいことを話してもらう
④身体言語(非言語):クライアントの話に表情を合わせるなど非言語メッセージに気をくばる
2)かかわり技法(基本的傾聴の連鎖)
クライアントに寄り添った傾聴
①質問技法
a)開かれた質問(オープン・クエスチョン)例)どんな、どのように、何、どうして、など
・相談者が自分自身の気持ちや状況を自由に話せる
・自問自答しやすい
・自由度が高いため、どう答えてよいか分からず、答えにくい場合もある
b)閉ざされた質問:クローズド・クエスチョン 例)はい/いいえ、一言で答えられる質問など
・選択肢を限定した質問
・簡単に答えられる質問
・話題が限定され広がりにくい
・尋問や詰問に感じられる場合もある
②クライアント観察技法
相談者を観察する意味と効果 相談者を観察する際、メラビアンの法則が参考になります。
*アメリカの心理学者アルバート・メラビアン(Albert Mehrabian)が提唱したコミュニケーションに関する原則です。メラビアンの法則は、コミュニケーションにおける情報の受け取り方を説明しようとしたもので、主に非言語コミュニケーションの影響に焦点を当てています。
具体的には、メラビアンは次の3つの要素を強調しました。
言語情報7%:言葉(Verbal Communication): コミュニケーションの中で言葉自体が伝える情報の重要性を評価した結果、言葉だけでは情報の7%しか伝わらないという主張をしました。つまり、言葉の内容はコミュニケーションの一部でしかなく、他の要素と組み合わせて情報が受け取られるとされました。
聴覚情報38%:音声のトーン(Tone of Voice): メラビアンは、発話者の音声のトーンや声の質が情報の受け取り方に影響を与えると指摘し、情報の受け取りにおいて音声のトーンが38%の重要性を持つと主張しました。言葉の内容に対する声の調子や感情の表現が、受け手に対する印象や理解に影響を与えると考えました。
視覚情報55%:非言語コミュニケーション(Nonverbal Communication): メラビアンの法則では、非言語コミュニケーション(身振り、表情、視線、姿勢など)が情報の受け取りにおいて最も重要であるとされ、情報の受け取りにおいて非言語コミュニケーションが55%の影響を持つと主張されました。
例えば沈黙のとき、その沈黙にどんな意味があるか観察することも重要
・考えている→内省中→中断せずに見守る
・違うところを見ている→信頼関係の再構築が必要かもしれない?
・混乱していそう→何を考えているかわからない→何かしらのアクションが必要かもしれない?
ただし、メラビアンの法則は非常に単純化されたモデルであり、すべてのコミュニケーション状況に当てはまるわけではありません。特定の状況やコンテクストによって、言葉、音声のトーン、非言語コミュニケーションの重要性は変化します。
したがって、コミュニケーションの理解において、言葉、音声のトーン、非言語コミュニケーションのすべてが重要であり、これらを組み合わせて全体のコミュニケーションを評価することが重要です。
③はげまし技法
・相談者の語りをはげます 例:うなずき、あいづち、など
・言語によるはげまし 例:うん、ええ、はい、えぇそれで、など
・非言語によるはげまし 例:うなずく、相づち うーん など
はげましにより相談者は自分の気持ちや考えを探求し、語ることを励まされる
④いいかえ技法
・相談者が語ったことの意味を変えずに違う言葉で言い換える(本質を伝え返す)
・ただし、まずは相談者が使用した言葉で返すことが大切。
・「本質」を伝え返せると、相談者は「わかってもらえた」と感じ信頼関係が醸成されより語りやすくなる
・あえて違う言葉で伝え返すので、相談者の自問自答を促す
⑤要約技法
・長い話の要点をまとめて短い表現で伝え返す。
・時系列で整理する
・面談の中間や最後に要約を行うと相談者の話の整理、まとめる効果がある
・2回目以降複数の面談の際、面談の最初に用いると効果的。例)前回まで〇〇でしたね・・・
⑥感情の反映技法
・感情の反映とは、感情を命名すること
(相談者の言葉で感情を表現してもらう、感情に名前をつける)
例)・その時どんなお気持ちでしたか?
・相談者が言語化できない感情をも注意して観察し、明確にする。
例)うまく感情を説明できないとき、ていねいにゆっくり対応するなど
・複雑な感情を受け止め、相談者が意識できるように伝え返す
・感情を言い換える 例)うまく説明できないとき、こういうお気持ちですか?
・相談者がその根底にある自分の感情に気づき向き合っていく(内省)ことを促す効果がある
例)ていねいにゆっくり問いかけをしていくと根底の感情に気づいてくる
・相談者の自問自答を促す効果がある
・相談者にとってかかわりやすい感情・かかわりにくい感情があるので注意する
例)ポジティブな人とネガティブな人により感情の捉え方が異なるので、どちらの感情もバランスよく扱う
・情動(激しい感情の動き:喜び、悲しみ、怒り、恐怖、不安など)にも注意
例)人の心と体は結びついている → 緊張して足が震える、汗をかくなど
・2次感情(ある一次感情が発生したあとに発生する感情、例) 不安や困惑から怒りへ
3)5段階の面接構造
①ラポール(信頼関係)
かかわり行動やクライアント観察技法により、ラポール形成をはかる。
②問題の定義化
基本的傾聴の連鎖(かかわり技法)により、相談者の相談ストーリーを引き出しながら情報を収集する
③目標の設定
基本的傾聴の連鎖により、相談者にどの様になりたいか語ってもらう
④選択肢を探求し不一致と対決する
基本的傾聴の連鎖により、目標達成のために具体的にどのような方法があるか探り決定する
⑤日常生活への般化
面談で習得したことを日常生活に反映するための様々な方法を検討する
まとめ
マイクロカウンセリング技法は、コミュニケーションスキルの向上や効果的な対人関係の構築に役立ちます。カウンセリングだけでなく、コーチング、教育、リーダーシップなどのさまざまな分野で使用されている技法なので、これらのスキル(技法)を習得することは、キャリアアップには欠かせないと思います。
上記の「相談者やクライアント」という言葉を「部下や同僚」などと身近な方に置き換えてみれば、今回の技法の理解・活用がキャリアアップにも役立つ重要スキルと感じられると思います。