キャリア相談過程で必要な技能の一つ「システマティックアプローチ」とは、コンサルタントとクライアントの間に良い人間関係を作り、共同してカウンセリングの目標を定め、計画を立て、その計画を達成するための方策や処置を体系的に進めるアプローチ。
部下育成など日常にも応用できるスキルでもあり、キャリアアップにも役立ちます。
キャリアコンサルティングの流れ
1)信頼関係の構築:クライアンが安心して話のできる信頼関係を築く
①物理的環境整備
静かで落ち着いた環境や座り方などにも注意
例:真正面よりも斜めのほうが心理的負担が少ない、上司や部下との面談にも応用できる!
②心理的な信頼関係の構築 信頼関係(ラポール)の形成
例:挨拶、笑顔、アイコンタクト、姿勢、
無条件の肯定的関心(受容的態度)、共感的理解、自己一致
加えて、以下の6分野の支援を行う(各詳細は別途説明予定)
①自己理解の支援 自分自身を理解するように援助
②仕事理解の支援 進路や職業、キャリア・ルートの種類や内容を理解するように援助
③啓発的経験の支援 選択や意思決定の前にやってみることを支援(例えば、資格取得など)
④意思決定の支援 必要なカウンセリングを行い、選択や意思決定の援助
⑤方策の実行支援 意思決定したことの実行支援
⑥新たな仕事への適応支援 これまでのコンサルティングを評価し、クライアントと適応の援助
2)問題の把握
来談の目的、なにが問題なのかを明確にする。
クライアント視点の問題(来談目的、相談内容、抱える問題、置かれた状況など主訴)とコンサルタント視点の問題(見立て、仮説)を相互に確認し、その問題解決のためにクライアントが行動する意志を確認する。
コンサルタントは、傾聴、人と事柄、内省を促す問いかけ、かかわり技法などを用いてクライアントの気づきを引き出すことが大切。
クライアント自身が真の問題点に気づいていない場合や、不安や警戒により、十分開示しない場合もあるので、クライアントのノンバーバル情報(言語以外の情報:表情、声の調子など)にも十分注意して、主訴を理解するように努力する。
*豆知識:聞く(hear)耳で物音を聞く、聴く(listen)心で聴きとり、理解しようとする、訊く(ask)頭で考え、知りたいことを尋ねる
3)具体的展開
①目標設定 解決すべき問題を検討し、キャリアコンサルタントとクライアントとの共同作業により最終目標を設定する。まず、クライアントの悩みや阻害要因に気づかせる。次に、具体的ないくつかの方策を選択し、それを行動のステップに組み立る。最後に契約を結ぶことでクライアントのコミットメントを明確にする。
加えて、問題解決のためにクライアント自身が積極的に関わるという意志を確認することが重要、その後目標を共有する。
キャリアコンサルタントとして、できないこと、してはならないことは専門家にリファー(紹介)することも必要。
②方策の実行 選択した方策(意思決定、学習、自己管理など)を実行する。実行状況を把握しつつ、必要に応じてサポートする
4)結果の評価
実行した方策とカウンセリング全体について評価する。クライアントにとって方策は成功したか、目標は達成したか、カウンセリングは終了してよいか、カウンセラーにとってどうか。
5)カウンセリングとケースの終了
カウンセリングの終了を決定し、クライアントに伝える。成果と変化を相互に確認する。問題があれば再び戻って来れることを伝える。カウンセラーはケース記録を整理し完結する。
信頼関係(ラポール)形成のときに役立つこと
1)言語的(バーバル)コミュニケーション
キャリアコンサルタントはクライアントの言っていることを事務的に聞くのではなく、心を傾けて、なにを訴えようとしているのか、どのような気持ちではなしをしているのか、ということをよく聴きとり、理解するようにする。
具体例
伝え返し:クライアントの話の内容や話す様子から伝わってきたことを、自分の言葉にしてクライアントに「伝え返す」こと。単なる表面的なやり取り「オウム返し」ではなく、クライアントが伝えようとしていることを汲み取りながら言葉で伝え返す。これにより、クライアントには「このコンサルタントは私の言おうとしていることを受け止めて理解してくれている」「安心して話ができる」などの心理的効果が高い手法です。
コンサルタントも自分の言葉で言い換える、伝え返すことで、クライアントの言いたいことがどのくらい理解できているのか確認することで、相互理解、信頼関係を深める効果もあります。
2)クライアントが言外に(ノンバーバル)訴えていることを考慮する
クライアントの話す内容を客観的事実として理解することは必要だが、その事実に囚われすぎずに言外の意味についてよく考える必要がある。クライアントから発信される非言語メッセージ(ノンバーバル)に注意を払い、言語外に表現されていることも聴きとり理解する事が重要である。
3)内部的照合枠・内的準拠枠=内的思考の枠組み=思考の癖、思考のパターン
人は言語を通じて考えや感情を表現しますが、人は生まれ育つ過程で、自分なりに物事を理解する枠組みを作っていると考えられています。その枠組は一人ひとりの経験、価値観、物事に対する認識により異なるという前提を持つことが必要です。言い換えると、同じ言語表現でも人により意味が異なることがある、ということを話を聴く前提に立つことが必要となると思います。
例えば
①最初は「なにもわからない」と思ったほうが良い
ある人が表現している状態と言葉の結びつきはその人独特のものである可能性があり、同じ言葉だからといって同じっことを意味するとは限らないと考える。
②コンサルタントである聞き手は、クライアントが何と言っているか、ではなくて何を言わんとしているか、を理解しなければならない。おもんばかる必要がある。
③クライアントが言ったことを自分勝手に受け取って、その人を理解した気になってはいけない。
④早わかりは禁物
4)内容と感情
人の話には「内容」と「感情」がある。人が人になにかを伝える場合、大抵は何かしら関連する内容がある。このことを、内容に至る過程、直接の内容とは少し距離のある「過程」メタ・コミュニケーションという。
カウンセリングに置いてもクライアント話の内容だけでなく、感情やその内容に至った経緯、過程等表面に出てこないメタ・コミュニケーションや感情を察知する必要がある。
5)部分と全体
クライアントがなにかの問題や悩みについて話しているとき、その問題自体に関わるだけでは解決にならない場合が多い。その問題がクライアントの中に占める割合や位置、問題に至った経緯などを理解しないと、真の理解や支援も困難な場合がある。問題の部分にこだわるのではなく、その人全体を理解した上で目標や行動の支援をする必要がある。
6)クライアントへの力づけ、勇気づけ
カウンセリングが行われる間、コンサルタントは常にクライアントの支援者としてクライアントを力づけるよに関わることが重要です。力づけには、クライアントが達成したことに対しての承認と、これから行おうとしていることに対する励ましなどかある。クライアントから感じられたことをフィードバック、特に肯定的フィードバックがとても効果的であり、クライアント自身が気づいていない自分の強み、長所を見つけることもある。
具体例として
①承認:とても多くの経験をお持ちなのですね、目標を見事クリアされましたね
②励まし:次は今回の経験を活かせそうですね、
③肯定的フィードバック:私は〇〇さんの真面目に取り組む姿勢は強みだと思います。
:私は〇〇さんがとても責任感が強い方だと感じました。
*注意点:クライアントをコンサルタントの価値観だけで評価したり、決めつけるような言い方などに注意。コンサルタントはあくまでクライアントの支援者であり、評価する立場ではない
悪い例として
・この経歴ならどの会社も入社できますよ。
・このような経験は世間では当たり前のことです。
以上のコンサルタントを上司、クライアントを部下と置き換えて、上司が部下とのコミュニケーションのときに応用することが可能です。信頼関係構築のコミュニケーションスキルは、キャリアアップにはとても役立ちます。
まとめ
キャリアコンサルティングの流れはシステマティックアプローチを採用している。
信頼関係の構築→問題の把握→具体的展開(目標設定と方策決定)→方策の実行→結果の評価→ケースの終了
このプロセスはキャリアコンサルティングだけではなく、組織における部下とのコミュニケーションにも十分応用可能。
また、信頼関係(ラポール)の形成に役立つ に記載した内容は、日常における対人関係コミュニケーション、家族や組織内(同僚、上司、部下)におけるコミュニケーションの円滑化にも大いに役立つスキルだと思います。
スキルアップには欠かせないスキルです。