60代という人生の新たなスタートライン
定年退職を迎えた60代。「時間はあるのに、どう過ごせばよいのかわからない」と戸惑う人は少なくありません。
仕事中心だった日常から一転、自分の時間を持て余すことで「ぽっかり空いた感じ」が生まれるのです。これまで他人や組織のために頑張ってきた方ほど、自分のために使う時間の過ごし方に困るのは自然なことです。
例えば、私が支援した元サラリーマンのAさん(62歳)は、退職後1年間何もせず過ごした結果、生活にハリがなくなり、軽い不眠状態に。しかし、ある日カメラ講座に参加したことで趣味が芽生え、今では月に1回のフォト散歩仲間との活動が生きがいになっています。
人生100年時代、60代はまだまだ“スタート地点”。一人でも気兼ねなく楽しめる「ソロ活・趣味活動」が、新しい自分を引き出す鍵となります。
ソロ活とは?一人時間を楽しむという選択
「ソロ活」とは、一人で行動し、自分の好きなことに集中する活動のこと。誰かに合わせず、自分のペースで楽しめるため、シニア世代にこそ向いています。
「一人で行動するなんて寂しそう」と感じる方も多いですが、実際には“自分のために自由に動ける心地よさ”に気づく方が続出しています。
Bさん(64歳女性)は、若い頃に通っていた美術館をふと思い出し、再び一人で訪れてみました。最初は緊張したものの、今では展示を見るたびに自分の感性が研ぎ澄まされるのを実感し、近隣の美術館を“巡る”のが月の恒例行事になっています。
また、Cさん(60歳男性)は、平日の昼に一人映画館を訪れ、好きな邦画を鑑賞するのが楽しみだそうです。「混んでいないし、誰にも気を使わず集中できる」と話してくれました。
ソロ活のメリット
- 気疲れせず、自分のペースで行動できる
- 心の整理やリフレッシュになる
- 新しい興味関心が自然と芽生える
- 自分の時間に責任を持ちやすくなる
- 他人に依存せず、自立した日常が築ける
ソロ活・趣味活動の始め方:最初の一歩を踏み出すコツ
「やりたいことが見つからない」という悩みには、過去の“好きだったこと”を振り返るのが有効です。
「子どもの頃よくやっていた」「仕事が忙しくて諦めた」「いつかやってみたかった」――そんな思い出がヒントになります。
Cさん(66歳男性)は、学生時代に好きだったラジオ番組を思い出し、今はインターネットラジオでお気に入りのパーソナリティを聞きながら、週末に「自分専用の喫茶時間」を楽しんでいます。「誰かと過ごさなくても充実感を得られる」と話してくれました。
小さく始めることが大切
- 最初は10分の読書や1駅分の散歩でもOK
- 地域の広報誌や掲示板でシニア向け講座を探す
- スマホ検索で「60代 趣味」「○○市 講座」など調べてみる
無理なく、自分が“楽しい”と感じることを見つけていくプロセス自体が、セカンドライフの醍醐味です。
おすすめのソロ活・趣味活動ジャンル
1. 自然と触れ合う:ガーデニング・散歩・バードウォッチング
Dさん(60歳)は定年後、家庭菜園を始めました。最初は小さなプランターだけでしたが、今では貸し農園を借りて、季節の野菜を育てています。「土に触れると気分が落ち着く」と語り、生活リズムも改善されました。
また、Eさん(61歳)は、散歩中に出会う野鳥に興味を持ち、図鑑を買って名前を覚えるようになったそうです。「散歩が宝探しのようになった」と笑顔を見せます。
2. 学び直し:歴史散策・読書・語学・オンライン講座
Fさん(63歳女性)は、図書館で借りた「戦国武将の足跡を訪ねる」本に感化され、月に一度歴史的な街を散策するように。スマホで旅日記をつけるようになり、「記録する楽しさも加わった」と語っています。
また、Gさん(68歳男性)は、昔使っていた英語を思い出そうとオンライン英会話にチャレンジ。「外国人と話すのは緊張するけど、脳が活性化する感じがする」と言います。
3. 表現する活動:写真・絵手紙・手芸・ブログ
Hさん(65歳男性)は、昔買ったままだったデジカメを引っ張り出し、近所の川沿いで風景を撮影。SNSに投稿した写真に「いいね」が付くようになり、今ではシニア向け写真サークルのメンバーです。
また、Iさん(64歳女性)は、趣味で始めた絵手紙を毎月親戚に送っています。「郵便受けを開けた時の笑顔を想像すると、こちらも幸せな気持ちになります」と話します。
4. 身体を動かす:ヨガ・健康体操・ダンス・軽登山
Jさん(67歳女性)は、市の健康体操教室に参加。週1回の運動が習慣化し、「体も軽くなり、気持ちも前向きになった」と実感しています。
Kさん(66歳男性)は、健康目的で始めた軽登山がきっかけで山の魅力にハマり、今では全国の低山を巡る“おひとり登山”を楽しんでいます。
セカンドライフを楽しむための心構え
「うまくできなくてもいい」と自分に許す
Lさん(65歳)は、始めたばかりの水彩画で線が曲がってしまい落ち込んでいましたが、「気にせず続けていたら少しずつ形になってきた」と言います。大切なのは、結果ではなく“楽しむ姿勢”です。
「一人でも大丈夫」と信じること
孤独を感じるよりも、「誰にも気を使わず自由に過ごせる」と捉え直すと、精神的なゆとりが生まれます。Mさん(61歳男性)は、朝のコーヒーを一人でゆっくり味わう時間が「今一番の幸せ」だと語ってくれました。
仲間はあとからついてくる
ソロ活はあくまで「自分のため」に始めるものですが、活動を通じて自然と出会いが生まれることも。HさんのようにSNS投稿がきっかけで仲間が増えるケースも多くあります。無理に人とつながろうとせず、「自分が心地よい範囲」で行動すれば、自然と良縁が広がります。
ソロ活の注意点と成功のコツ
ソロ活は自由で気楽な反面、「やる気が続かない」「孤独感を感じる」「家にこもりがちになる」といった落とし穴もあります。せっかく始めたソロ活を長く続けるためには、いくつかのポイントを意識すると効果的です。
1. 「日常の延長線」に趣味を置く
あまり構えすぎず、生活の一部として組み込むことがコツです。たとえば、毎朝の散歩にスマホカメラを持っていくだけで、自然と写真の趣味に発展することもあります。
Nさん(66歳女性)は、「朝食の前に近所の神社まで歩いてお参りする」のを日課にしたところ、日々の変化に気づく感性が高まり、俳句に興味を持つようになりました。
2. 続かないときは“お休み”していい
意欲が続かない日もあるのが人間です。「やらなければ」と義務にしてしまうと、逆に苦しくなります。気分に合わせてお休みする柔軟さも、ソロ活を続ける秘訣です。
Oさん(68歳男性)は、料理にハマっていたものの、一時期やる気が出ず中断。しかし、半年後にテレビ番組を見て再燃。「休んでもまた戻れる」と自分を許せたことが、今も楽しめている理由だと語ります。
3. 一人で行うが“孤立”しない
ときには地域のイベントや講座に参加して、顔を合わせる人を持つことも大切です。「挨拶する相手がいる」というだけでも、社会とのつながりを実感できます。
家族との関係に配慮したソロ活のすすめ方
ソロ活は「自分の楽しみ」ですが、家族と同居している場合、関係性にも配慮が必要です。特にパートナーがいる場合は、急に自分の世界に入り込むと、相手に不安や孤独感を与えることもあります。
1. 活動の“報告”をしてみる
Pさん(65歳男性)は、妻に「今日はこんな花を見たよ」とソロ活の様子を毎回話すようにしたところ、妻の反応も穏やかになり、「私も一緒にやってみようかしら」と言われるように。共有が“無言の壁”を溶かすこともあるのです。
2. “一人の時間”と“家族との時間”のバランスを
毎日ソロ活に没頭してしまうと、家族との関係が希薄になる恐れも。たとえば、「午前中は自分の趣味」「午後は家族と買い物」と時間帯で区切ることで、お互いの距離感が心地よく保たれます。
3. 相手の理解を得るには「話し合い」が重要
「自分が楽しむことが、かえって家庭にも良い影響を与える」という考え方を率直に伝えることが、円満なセカンドライフには不可欠です。
まとめ:60代は“これから”の時間をつくるタイミング
セカンドライフにおいて大切なのは、「他人と比べず、自分らしい時間を持つこと」。ソロ活や趣味は、その第一歩として最適な手段です。身近な場所・小さな行動・気軽な気持ちから始めることで、自分自身を再発見し、毎日に張り合いが生まれます。
Aさんが写真を通じて再び外出するようになったように、Bさんが美術館で感性を取り戻したように、あなたにもきっと、「自分に合った楽しみ」が見つかるはずです。
60代は、決して終わりではなく“自分らしく生きる”ための最良のスタート地点。
まずは、今日一つ、心が動くことに目を向けてみましょう。
ソロ活は、「自分と向き合い、人生を慈しむ時間」なのです。